『スロウハイツの神様』 辻村深月
夢追い人たちの集い
人にはどうしても譲れない理想やポリシーがあります。
特に、クリエイターと呼ばれる人は強い理想やポリシーを持っているのかもしれません。
誰も傷つかない世界を理想とし、明るい児童漫画を描き続ける狩野。
感情を徹底的に除去した世界を描こうとする正義。
才能がありながらも自分の絵を積極的に売り込めないスー。
環をライバル視し、彼女への対抗心から誰にも内緒で漫画の制作を続ける円屋。
凄惨な事件を乗り越えて、小説の持つ力を信じて作品を描き続けるチヨダコーキ。
成功と権力を好み、成功するためには手段を選ばないドライな一面があるが、誰よりも一つ屋根の下に暮らす「家族」を大切にする環。
いじめや家庭の崩壊、マスコミからのバッシング。
辛い経験を乗り越え、その経験を糧にして彼らは自分の創作活動の軸を形成し、作品を作り続けます。
個性豊かな彼らクリエイターたちが集うスロウハイツ。
そこに、コーキに思いを寄せる加賀美莉々亜が入居してきたことで彼らの平和な生活に動揺が走ります。
『人間は、「優しさ」か「強さ」か、そのどちらかを持っていなければ生きていくことなどできず、たいていはそのどちらか片方に目が行きがちだが、けれど人は意外とその両方を持ち合わせているという話。特に、ガカは』
勝ち気で横暴で、たびたびスロウハイツのみんなに厳しい言葉を投げかけるが、誰よりもおせっかいで優しく、スロウハイツのみんなに降りかかる問題を鮮やかに解決していく環。
そんな彼女の力強さに憧れる。
そして、マスコミや編集者・黒木の悪意に直面しながらも、それらを全て正面から受けて立ち、創作を続けるコーキ。
そんな彼のおおらかさと粘り強さはすごい。
伏線や謎解き要素に溢れる物語と、スロウハイツに暮らすクリエイターたちの人間模様を楽しんでいるうちに、ストーリーにに引き込まれていく小説です。