『草花たちの静かな誓い』 宮本輝
草花に託したメッセージ
物語の舞台は南カリフォルニアの高級住宅地ランチョ・パロス・ヴァーデス半島。
太平洋に面した、穏やかで自然豊かなリゾート地です。
夫に先立たれ、ランチョ・パロス・ヴァーデス半島の豪邸で一人暮らしをしていたキクエは、修善寺への旅行中に突然命を落とします。
彼女の甥にあたる弦矢は3200万ドルもの遺産と豪邸を彼女から相続することになります。
突如大金を手にし、狂喜乱舞といきたいところですが、弦矢にもう一つ衝撃的な事実が伝えられます。
「もしレイラが見つかったら、遺産の70%を彼女に譲って欲しい」
キクエの娘レイラは6歳の時に白血病で亡くなったと伝えられていました。
そのレイラが実は、6歳の時に誘拐され、行方不明になっていたことを知ります。
レイラはまだ死んでいないかもしれない。
では、レイラはどこへ行ってしまったのか?
キクエはなぜ嘘をついたのか?
弦矢は私立探偵ニコライ・ベロセルスキーとともに真相を追いかけます。
富豪たちがのどかな時間を過ごすリゾート地。
そんな豊かな暮らしの裏側で、児童の誘拐が社会問題化していて、誘拐された子供は売春組織に売られたり、臓器の提供者として取引されたりする可能性もある...
この小説では、そんなアメリカ社会の光と影が描かれています。
さらに、レイラをめぐる事件の真相からはもっと大きな問題が立ち上がります。
綺麗事だけでは問題を解決できないと感じたキクエは、自分が身代わりになり、真相を隠し続けることに決めました。
それでも弦矢に対してわざとヒントを残しておいたのは、彼の聡明さと優しさを信頼したからでしょう。
苦難に直面したキクエと弦矢を支えたのは、タイトルにもある庭の「草花たち」でした。
キクエは草花から生きるよすがを与えられ、草花に弦矢へのメッセージを託しました
花にも草にも木にも心がある。嘘だと思うなら 本気で話しかけてごらん、植物たちは褒められたがっているのよ。だから心を込めて褒めてやるんだよ。そうしたら必ず応じてくれるよ
厳しい環境を乗り越えて生きる草花たちに勇気をもらい、弦矢は将来に向けて進み始めます。