『あと少し、もう少し』 瀬尾まいこ
迷いながらもひたむきに走る
ぼくはお正月に必ず箱根駅伝を見ます。
不思議なことに、箱根駅伝では毎年ドラマが生まれます。
下位からのごぼう抜き、圧巻の区間新記録、襷のパス寸前での繰り上げスタート、主力選手の予想外の失速...
各校の選手が駅伝に向けて死力を尽くして努力してきたからこそ、彼らの走りは人を惹きつけ、人を感動させるドラマが生まれるのかもしれません。
この小説のテーマは駅伝。
舞台は箱根駅伝のような大きな大会ではなく、自然豊かな田舎の中学生たちが県大会をかけて競う地区予選です。
市野中学校はこの地区で18年連続で県大会出場を果たしている強豪校です。
しかし、厳しい練習で市野中学駅伝チームを強くしてきた満田先生が異動となり、後任はなんと陸上の知識皆無の美術教師・上原先生が就くことに。
さらに、陸上部のメンバーだけでは駅伝チームを組めないため、他の部からメンバーをかき集めることになります。
びびりで寡黙ないじめられっ子
何をしても長続きせず、学校の勉強も早々に諦めた不良
人からの頼みを断れないムードメーカー
どこか斜に構えたところがある、芸術家気質の吹奏楽部員
部長に特別な思いを寄せる後輩
そして、頼りない顧問に苛立ちを覚え、苦悩する部長。
個性豊かなメンバーたちがそれぞれの想いを胸に走ります。
難航するメンバー集め、新たな顧問への不満、部長・桝井の不調。
メンバーそれぞれが困難に直面し、思春期ならではの悩みに葛藤する中で、彼らはどうやってそれを乗り越えていくのか?
市野中学校は今年も県大会出場を果たすことができるのか?
中学生男子の複雑な心境を完璧に描き切った傑作です。
【あとがき】
『君が夏を走らせる』という小説で、今回二区を走った不良・大田の後日談が書かれています。
高校生になった大田が一人で一歳児の子守を任されるという、なんとも恐ろしいストーリーです。
この小説についても感想を書いているので、ぜひ読んでください!
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