『楽園のカンヴァス』 原田マハ
アートにかける人々の情熱
美術館には人を惹きつける独特の雰囲気がある。
一心に絵を見つめる来館者たち。その視線を受け止め、どっぷりと鎮座する鮮やかな作品の数々。
静かで厳かで、それでいて心沸き立つような不思議な感情。
そんな感情を抱くのは、魂をかけて作品を描いた画家たちの「情熱」を感じるからでしょうか。
ぼくは一昨年、東京都美術館のコートールド美術館展を見に行きました。
エドゥワール・マネの大作「フォリー=ベルジェールのバー』を見て、全く美術の知識がない自分でも作品に圧倒され、感動を覚えたことを覚えています。
『楽園のカンヴァス』はアートをこよなく愛し、アンリ・ルソーの作品に魅了された二人の研究者、ティム・ブラウンと早川織絵の物語です。
ティム・ブラウンはMoMA(ニューヨーク近代美術館)のアシスタントキュレーターで、来年開催が予定されている「アンリ・ルソー展」の準備を進めていました。
そんなティムのもとへ一通の封書が届きます。
手紙の差出人は伝説のコレクター、コンラート・バイラー。
彼が所有するルソーの名作「夢を見た」を調査してもらいたいという内容でした。
ティムがバイラーの邸宅を訪れると、そこには同じくバイラーに招かれたルソー研究者・早川織絵がいました。
織絵はパリの学会を賑わせている新進気鋭のルソー研究者です。
ルソーをこよなく愛するティムと織絵に対して、バイラーは衝撃的なことを告げます。
七日間作品を調査してもらい、最終日にこの作品の真贋を判定してもらう。
そして、より優れた講評を行ったものに作品の取り扱い権利(ハンドリングライト)を譲渡すると...
しかも、バイラー氏所有の名作「夢を見た」は、MoMAが所有するルソーの大作「夢」に酷似していました。
ティムと織絵、二人の研究者が自らのルソー愛とプライドをかけて火花を散らします。
「夢を見た」に隠された秘密は何か?
バイラー氏の正体は?
ティムと織絵、どちらがハンドリングライトを手にするのか?
画家とコレクター、研究者のアートへの「情熱」が詰まった重厚な美術ミステリーです。