『羊と鋼の森』宮下奈都
平凡な人間が天才に立ち向かうためにはどうすればいいか?
【目次】
1. あらすじ
2. 凡人の心得1:好きなことに熱中せよ
3. 凡人の心得2:高い目標と決意を持て
1. あらすじ
・主な登場人物
外村:高校時代に天才調律師板鳥と出会い、調律の世界に惹かれた。
専門学校で調律を学んだのち、板鳥が勤めている小さな楽器店に就職する。
板鳥:誰もが認める凄腕調律師。
和音と由仁
外村が調律を担当した双子の姉妹。
外村は仕事以外の面でも姉妹の相談に乗るなど、親しい関係を築いている。
本番で普段以上の実力を発揮し、観客を魅了する演奏ができる由仁に対して、和音は引け目を感じていたが、由仁が病気でピアノが弾けなくなると、プロを目指すという覚悟が芽生え、実力が開花する。
主人公の外村は、楽器の演奏経験がなく、調律の仕事でも何度も失敗を重ねています。
調律師としてまだまだ優秀とは言えません。
それでも板鳥という天才を追いかけ、日々調律の勉強を惜しみません。
和音は、由仁という身近な天才ピアニストに嫉妬し、苦悩することもあります。
それでもピアノを練習するのが好きで、毎日ピアノを引いています。
「凡人」の二人は、圧倒的な才能を持つものが身近にいてもどうしてめげずに頑張り続けられるのでしょうか?
2. 凡人の心得1:好きなことに熱中せよ
外村と和音には共通点が多いです。
その一つが、好きなことに熱中して、とことん努力できることです。
和音は「弾けなかった曲が弾けるようになると嬉しいからつい練習してしまう」と述べています。
外村はそんな和音に対して、
「努力していると思ってする努力は、元を取ろうとするから小さく収まってしまう。自分の頭で考えられる範囲内で回収しようとするから、努力は努力のままなのだ。それを努力と思わずにできるから、想像を超えて可能性が広がっていくんだと思う。」
p214, 215
という感想を抱いています。
かく言う外村も、毎日勤務時間外に調律の演習に励んでいて、それを酷に思っていません。
思えば、僕が努力するときにはどうしても人に褒められたいとかお金をもらいたいとか打算的な理由が入ってしまいます。
純粋に好きだから努力するのって難しいことだけど、そういう好きなことを見つけられたら楽しいだろうなあと感じますね。
好きなことに熱中して、努力を苦にせず頑張り続けられる力が、凡人が周囲との才能の差に絶望せずに立ち向かうために重要な要素なのだと痛感しました。
3. 凡人の心得2:高い目標と決意を持て
和音は、由仁が病気でピアノを弾けなくなったことをきっかけに、プロを目指すと決心します。
その後、和音が外村が勤務している楽器店で演奏すると、「あの子あんなにすごかったっけ」と評価されるほど大きく成長しました。
高い目標を持ったことで、才能への嫉妬と言う心の枷が外れて自分に自信が持てるようになり、惜しまぬ努力によって手に入れた力が解放されたのだと思います。
今は自分に自信が持てない外村も、目標が明確になれば、優秀な調律師になれると思います。
事実、この小説の最後も、外村の実力が開花する期待に満ちたものになっています。
高い目標を持つことで、周囲との才能の差に愕然とするよりも、自分の実力を伸ばしていこうという前向きな気持ちをもたらしてくれるのだと思います。