『博士の愛した数式』 小川洋子
弱いものへの無償の愛
「弱い子はみんな私が守ってあげる」
私が曾祖母のお見舞いに行ったとき、彼女が言っていた言葉です。
痩せた体に反した思いがけない、力強い言葉に驚いたことを覚えています。
年配の方が弱いものへ向ける無償の愛は何よりも力強く、逞しく感じるものです。
博士がルートに向ける愛情にも「弱いものを必ず守ってやる」という逞しい精神を感じました。
家政婦の「私」は老数学者の「博士」のもとへ派遣されます。
博士は記憶が80分しか持たず、身の回りのことも一人では全くできません。
しかし、博士の数学へ向ける情熱と愛情は人並みならぬものでした。
彼は身の回りにある数字に次々と意味を持たせていきます。
数字を愛し、謙虚な姿勢で数字に対峙する。
数学が嫌いだった「私」もそんな博士の数学についての話を聞いて、数学の魅力に引き込まれていきます。
博士が人並みならぬ愛情を向けるのは数学だけではありません。
彼は小さい子供に対して無条件に愛情を与えます。
博士は「私」の10歳の息子が一人で留守番していることを聞き、自分の家に息子を連れてくるべきだと主張します。
それ以降、息子は学校帰りに博士の家に来るようになり、博士は息子を「ルート(√)」と呼び可愛がります。
博士がルートに向ける深い愛情。
それをきっかけに「私」もルートも博士に心を開いていきます。
「私」とルートと博士。
本当の家族ではないけれど3人の強いつながりは家族に近いものを感じました。