大学生の読書感想文

大好きな小説の魅力を紹介します

『博士の愛した数式』 小川洋子

弱いものへの無償の愛

 

 

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「弱い子はみんな私が守ってあげる」

 

 

私が曾祖母のお見舞いに行ったとき、彼女が言っていた言葉です。

 

 

痩せた体に反した思いがけない、力強い言葉に驚いたことを覚えています。

 

 

年配の方が弱いものへ向ける無償の愛は何よりも力強く、逞しく感じるものです。

 

 

博士がルートに向ける愛情にも「弱いものを必ず守ってやる」という逞しい精神を感じました。

 

 

 

家政婦の「私」は老数学者の「博士」のもとへ派遣されます。

 

 

博士は記憶が80分しか持たず、身の回りのことも一人では全くできません。

 

 

しかし、博士の数学へ向ける情熱と愛情は人並みならぬものでした。

 

 

彼は身の回りにある数字に次々と意味を持たせていきます。

 

 

28は完全数、220と284は友愛数...

 

 

数字を愛し、謙虚な姿勢で数字に対峙する。

 

 

数学が嫌いだった「私」もそんな博士の数学についての話を聞いて、数学の魅力に引き込まれていきます。

 

 

博士が人並みならぬ愛情を向けるのは数学だけではありません。

 

 

彼は小さい子供に対して無条件に愛情を与えます。

 

 

博士は「私」の10歳の息子が一人で留守番していることを聞き、自分の家に息子を連れてくるべきだと主張します。

 

 

それ以降、息子は学校帰りに博士の家に来るようになり、博士は息子を「ルート(√)」と呼び可愛がります。

 

 

博士がルートに向ける深い愛情。

 

 

それをきっかけに「私」もルートも博士に心を開いていきます。

 

 

「私」とルートと博士。

 

 

本当の家族ではないけれど3人の強いつながりは家族に近いものを感じました。