『凍りのくじら』 辻村深月
ドラえもんの暖かいまなざし
あなたの描く光はどうしてそんなに強く美しいんでしょう。
そういう質問をまま受ける。私の撮る写真についての話だ。
それに対する私の答えは決まっている。
暗い海の底や、遥か空の彼方の宇宙を照らす必要があるからだと。
主人公の芦沢理帆子(二代目芦沢光)は新進気鋭のフォトグラファー。
彼女が父のあとを継ぎ、写真家となったきっかけは、高校生の夏に起きたある不思議な出来事だった。
そのとき彼女が浴びた光は、今も彼女を照らしている。
今、真っ暗闇で悩み、苦しんでいる人にもその光を届けたいから、彼女は写真を撮っているのだ。
高校生の理帆子は誰とでも表面上は仲良く付き合えるが、本音で語り合うことができない人間だった。
暇つぶしのために友達と遊んだり、恋人を作ったりする周囲の人々を心の中でバカにしているから、色んな人と関わっても、自分は『少し・不在』だと感じてしまう。
彼女の父は5年前に失踪し、母は癌のため余命わずかだ。
友達との関係も家族との関係もどこか不安定な彼女は、自分の理想を追求するために、ダメ男・若尾大紀と付き合っていた。
彼と別れた後も理帆子は彼を甘やかし続けてしまい、その結果取り返しのつかないことが起きてしまう...
家族との別れ、若尾の起こした大事件。
一人ではどうにもならない窮地に直面した理帆子は自分を支えてくれる人の温かさと家族の愛を実感し、周りの人に心を開いていきます。
生きづらさを感じ、真っ暗闇のどん底にいた理帆子を終始温かいまなざしで見つめ、最後は暖かい光で彼女を照らしてあげる。
理帆子を見捨てず、支え続けるこの小説の温かさは、何度テストで0点をとってものび太を信じて手を貸し続けるドラえもんの優しさそのものです。
辻村さんの『ドラえもん』と藤子・F・不二雄先生への愛とリスペクトが詰まった物語です。