『そしてバトンは渡された』 瀬尾まいこ
繋がれる幸せのバトン
大家さんにお父さん、おばあちゃんにおじいちゃん。思い出の中でしか会えない人が増えていく。だけど、いつまでも過去にひたっていちゃだめだ。
(中略)
親子だとしても、離れたら終わり。目の前の暮らし、今一緒にそばにいてくれる人を大事にしよう。
主人公の優子は幼い頃に母を亡くし、その後も何度も父親、母親が代わっています。
水戸さん、梨花さん、泉ヶ原さん、森宮さん。
親から新たな親へとバトンが繋がれ、優子はどの親からもたっぷりの愛情を受けて育ちます。
「親子だとしても、離れたら終わり」という一見冷たくも思える優子の覚悟は、自分を今目の前で見守ってくれる人を大切にしようという優子の誠意と優しさの裏返しです。
血の繋がっていない親と暮らす複雑な家庭環境にあっても、愛し愛されるという家族の基本を忘れない。
だからこそ優子は周りから見れば不幸に見える状況に置かれても、自分が不幸だとは感じず、のびのびと生活できたのだと思います。
僕はこの小説に出てくる5人の「親」のなかで一番森宮さんが好きです。
不器用で親バカで、少しお節介なところもありますが、思春期で悩みの多い優子の相談に乗り、大量の餃子を作ったりして優子を励ましました。(励まし方がちょっとずれているような気がするけど…)
最後まで優子に寄り添い、バトンをゴールに届けたのも森宮さんです。
最後のシーンで森宮さんが残した
「どうしてだろう。こんなにも大事なものを手放す時が来たのに、今胸にあるのは曇りのない透き通った幸福感だけだ」
という感想は、大事な「娘」の幸せを願い、献身的に尽くせる森宮さんの人柄が表れた名言です。
互いを大切に思い合うという家族の原点を描いた名著です。