『さよなら獣』 朝比奈あすか
変わっていく自分と変わらない自分
10歳のとき、学校で1/2成人式というよくわからないイベントがありました。
10歳の子供から見て、大人になるのは当分先のことに思えるし、「あともう10年で成人ですよ」なんて言われても実感がわきません。
ただ、20歳になって思い返してみると、10歳の頃の時間はその後の自分の立ち位置や人間関係を決める上で重要な役割をしているように思います。
クラス内のカーストや友達グループを強く意識し始めるのがこの頃だからです。
クラスメートに溶け込めず、「変な子」扱いされる子はグループから排除される。
いけすかない奴に対しては陰口を叩いたり、無視したりする。
この小説では、このような10歳のときの人間関係の息苦しさがつぶさに記述されています。
クラスの中心人物から嫌われないように、本心を隠して人に迎合する阿佐。
きれいで運動神経が良いのに、自分中心で空気が読めない野々花。
「変人」と呼ばれ、周囲から浮いている咲。
3人の少女たちはそれぞれ悩みを抱えながらも、息苦しさを感じるクラスの中で懸命に生きていきます。
性格も考え方もまるで違うこの3人は20歳になって再会し、どういうわけか本音で語り合える友達になります。
自分を無理に飾り、集団に迎合しようとする性格が10歳の時から変わっていないことに気づく阿佐。
「オノ病」から脱却しつつある自分を寂しく感じる咲。
2人の友達からの忠告を受けて変わろうとする野々花。
わたしたちはあの頃の私たちを抱えながら、あの頃の私たちではなくなりつつある。
20歳になっても、10歳の頃の自分からはそんなに変わることはできない。
一方で、10歳のとき持っていた愛おしい個性はだんだん失われていく。
過去の呪縛と自分の変化に対峙しながら、自分の生き方を懸命に探っていく。
そんな3人の姿は泥臭くも美しい。